家族
私はつい数時間前飛行機のタラップを降りて、小さな母なる島へと戻ってきた。
2時間ほど電車に揺られ、そのまま姉の誕生日を祝うべく家族全員でレストランへと向かった。相変わらずこの家族は食事の時は静かである。私もそんな環境で育ってきたためむしろ声を出さずに、あるいは表情を作らずに食べることがまるで義務であるかのように、私が演じるべき役であるかのように感じている。
どうやらこの連休中、父は宮城の片田舎で一人で生活をする祖父の元へ行き買い物などの手伝いをしに行ったようだった。その時の面白い話を父が話し出した。しかし言いかけたと思うと思い出し笑いをし、何度も何度も言おうとするものの父の口から続きは出てこない。父がこれほどまでに笑っている姿を見たのは初めてかもしれない。母もそれにつらてれ笑い出し、一番上の姉も笑っていた。私もつられて少し口を動かしたがそこで堪えた。父は相変わらず笑い続けている。涙まで流している。私は歯ぎしりしながら堪えた。
なぜ私は家族の中でここまで素直になれないのだろうか。私自身はすっかり慣れきっているため普段疑問を持つことはないが、"家の中の私"と"外の私"というものを演じ分けている。母は一人息子に対する好奇心でいつも色々と質問をしてくるが私は常に業務連絡のように硬い口調、硬い表情で返答するだけだ。だが外に出た瞬間、或いは友達と電話をしている瞬間、私は別人になる。硬い表情が崩れ、砕けた口調でベラベラと話し出す。家族にその別人の私を見られたくない。なぜだろうか。
家にいるのが苦痛である。長いこといると自分でもどちらが本当の自分なのかわからなくなる。数日間外で人と話さないと"外の私"の舌はすぐに回らなくなる。
ここ最近家にいる時間がめっきり減り、一年のうち数ヶ月単位で家から離れるようになった。"外の私"が徐々に解放され、"家の中の私"という存在に嫌気がさし始めていた。家に帰るとまた"家の中の私"に無言で向き合わなければなない。
こんな感情を抱えているのは私だけなのか。なぜこうなったのか。今夜は帰ってきたばかりからかいつにも増して孤独だ。家族がいても孤独だ。
寂しい。
一人になりたい。