やる気のない日

私はこの春休みを利用して旅に出た。一度に複数の国に訪れる長旅は今回で2回目だ。何かを成し遂げようと志して行ったわけでもない。ただ行ってみたい国、みたい光景、そして何より人との出会いを期待していた。
 期待をはるかに上回る、出会いに満ちた旅だった。観光なんて正直な話どうでもいい。せいぜいすでに満杯のカメラロールの写真を古い方から何枚か消して新しく撮った写真に入れ替えるだけだ。
 人との出会いは新鮮だ。目で見る景色以上の深さの景色がその人の眼に映る。その人の口から溢れる言葉や吐息は、私の耳や鼻に入り、唾は肌につく。そうしてその人の記憶は私に侵入し、私の一部となる。生きた記憶は、別の生きた記憶へと伝播する。相互に絡み合った記憶は、再び外へと排出されまた新たな記憶へと侵入する。
この繰り返しによって私の中の記憶は絶えず融合し、再生産される。これが旅における私の快楽である。

観光なんてどうでもいいと言ったものの、実のところ歩くこともめんどくさくなってしまったというのもある。
話して、食べて、寝る。なんて人間らしいことだろう。普段何かと締め切りに終われた生活をしているのも疲れるものだ。たまにはだらだらしてもいいじゃないか。

ここのところあまり気分が浮かない日が続いているので今日はこれで寝ることにする。旅の話は気が向いたら書こうと思う。